際立つ個性を示す演技で鮮烈なインパクトを与える俳優
『warp』が注目の俳優にフォーカスする企画「cover story」。今月は演じる人物の人間性から匂いまで、自在に表現する注目の俳優、太賀が初登場。下町風情の残る東京都葛飾区柴又で取材撮影を行いながら、人を惹きつけてやまない彼の魅力に迫ってみた。
photo: Katsumi Omori styling: Dai Ishii
hair&make: Masaki Takahashi text: Jun Nakazawa
『warp』が注目の俳優にフォーカスする企画「cover story」。今月は演じる人物の人間性から匂いまで、自在に表現する注目の俳優、太賀が初登場。下町風情の残る東京都葛飾区柴又で取材撮影を行いながら、人を惹きつけてやまない彼の魅力に迫ってみた。
photo: Katsumi Omori styling: Dai Ishii
hair&make: Masaki Takahashi text: Jun Nakazawa
warp(以下、W) 今回、柴又での撮影でしたが以前に来たことは?
太賀(以下、T) 初めて来たんですよ。やっぱり雰囲気がいいですよね。
W 柴又が舞台となっている映画『男はつらいよ』がお好きということですが、どんなところに惹かれますか?
T 寅さんは今の時代の映画にはないヒーロー像というか、主役像というか。現在の作品の主役像とは明確に違うじゃないですか。フーテンで、すぐに女に惚れて、でも情に厚くて。昔、東京の下町に存在していた男性の在り方の1つというか。作品を観る度に、そういうところに憧れます。
W 今はコンプライアンスの問題とかで表現を規制されていたりしますものね。
T そうですよね。中心に寅さんがいて、騒動に巻き込まれるまわりの人たちが寅さんという人間を理解して受け入れている。そういう周りの人たちの懐の深さ、描き方も素敵だなと。現代だと周りの人の関わり方ももっと冷たいし、よそよそしいから。
W 『男はつらいよ』の監督である山田洋次監督にお会いしたことは?
T まだお会いしたことないんです。でも、もしチャンスがあれば是非お会いしたいです。
W 他にどなたか好きな監督さんはいますか?
T 北野武監督と橋口亮輔監督ですね。
W 北野作品で特に好きなのは?
T 『キッズ・リターン』、『ソナチネ』、『あの夏、いちばん静かな海。』とかですね。
W どれも90年代の作品ですね。
T そうですね。学生のときに観てはいたんですけど、大人になってからまた観直しても初めて観た時と衝撃は変わらないまま、新しい気づきがあったりして。観る歳によって見え方が変わってくる、というか。そういう映画って素敵だなと純粋に思います。
W 橋口亮輔監督を好きな理由は?
T 『ぐるりのこと。』や『恋人たち』を撮られた監督さんなんですけど、痛みや傷を抱えた登場人物への眼差しが、丁寧で深くて、とっても優しくて。僕も観る度に救われる思いになります。今のところ寡作な方なので、もし橋口さんとご一緒できたら奇跡だと思ってます(笑)。
CristaSeyaのジャケット 21万円、HED MAYNERのシャツ 4万2000円(ともにL’ECHOPPE)、CLASSのストール 5万2000円(WHEELIE)
W 確かに(笑)。役者の道に進もうと決めたのは具体的にいつ頃から?
T 14歳のときにデビューしたんですけど、小学校6年生くらいのときには俳優になりたいなと思っていたんです。それは子供がスポーツ選手になりたい、警察官になりたいとか、そういう延長線上みたいなものでした。一般応募の映画のオーディションがあって応募して。それで運よく出演することになって今に至るという感じですね。
W 随分早い段階から役者の道を目指されたんですね。
T そうですね。そこまで深い決意というより、純粋に野球が好きで、野球部に入るみたいな感覚というか。当時は演技をやってみたくて、とりあえずオーディションを受けたという感じでした。
W これまでご自身の思い通りにならないことも多々あったと思いますが、どうやって乗り越えてきましたか?
T でも役者をやっている上で、一番の醍醐味だと思うんですけど、いろいろな大人の人と出会い、いろいろな人と仕事ができることが喜びで。自分にはこれというターニングポイントはあまりないんですけど、現場の端々で普通に暮らしていたら出会えないような、面白い大人やかっこいい大人の人に揉まれて、刺激を受けて、1つずつ自分が形成されていった気がしますね。
W 最近で刺激を受けた現場はありましたか?
T もちろんどの現場も刺激的ですけど、やっぱり10代の頃のほうが感度が高かったとは思いますね。何かを得るということに。芸歴が12年目なんですけど、最初は当然右も左もわからなくて。でも今は「こっちが左だ、右だ」というのが少しずつ掴めるようになってきた。10代の後半に出会った人たちからの刺激はすごく大きいです。演劇だったら岩松了さんだったり、映画だったら石井裕也監督や深田晃司監督とか。そういった方たちとの出会いが、自分にとってすごく大きかったなと思います。
W そういえば、今年5月に公開される映画『海を駆ける』は海外撮影だったと聞きました。
T インドネシアに1カ月半くらい滞在して。すごく刺激も多かったし、まるで奇跡のような現場でした。ジャカルタに1週間くらいいて、そのあとにバンダ・アチェというスマトラ島の最西端の場所に行って。インドネシアってイスラム教徒が88%くらいいて、その中でもバンダ・アチェはとっても敬虔な街なんです。お酒は売っていないし、結婚前の男女が歩いているだけで罰せられるようなところで。娯楽という娯楽は一切なかったですけど、そうやって人種が違う人と仕事をやる環境というのがすごく豊かで。撮影のクルーも半分日本人、半分インドネシア人で。で、いわゆる責任をとるポジションの人も半々なんです。
W 言葉の違いだったり、制作進行の違いなどでやりづらさもありそうですが。
T いや、それがやりづらさが一切なかったんです。インドネシアの人たちはオンオフがはっきりしていて。仕事をするときはめちゃくちゃ早いし、休むときは休憩時間みんなで歌を唄ったり。お酒を飲むときはとことん酔っ払うし。そのオンオフがすごい。映画人の平均年齢も低くて。僕と同じ年だけど製作主任や助監督をバリバリやっているんです。
W 若い世代がちゃんと出てくることができる環境なんですね。
T そうですね。日本だと40~50代くらいが映画のスタッフとして脂が乗る時期かもしれないけど、インドネシアはもっと若くて。映画文化の歴史が浅いからなのか、これから盛り上がっていこうという気概がすごかったです。
W かけがえのない経験ですね。今後も海外での仕事もあると思いますが、一緒に仕事をしてみたい監督はいますか?
T パッと思い浮かぶのは、中国のジャジャン・クー監督、韓国のイ・チャンドン監督とか。同じアジア人だし、いつか一緒に仕事ができたらいいなと思います。アメリカだったらポール・トーマス・アンダーソンやジム・ジャームッシュとか。本当に憧れでしかない世界ですけどね。
左_HED MAYNERのジャケット 13万8000円、パンツ 5万4000円(ともにL’ECHOPPE)、USEDのシャツ 8900円(TRAMPOT)、ISSEY MIYAKE MENのシューズ 6万8000円(ISSEY MIYAKE)
右_the Sakakiのジャケット 5万2000円、パンツ 2万6000円(the Sakaki)、STUDIO NICHOLSONのシャツ 3万9000円(CHI-RHO inc.)、SALOMONのシューズ 2万円(SALOMON Callcenter AMER SPORTS JAPAN)、USED BURTONのバックパック 9800円(danjil)
W いつか実現することを期待しています。今後、どんな作品に挑戦してみたいですか?
T この間、『早春スケッチブック』(山田太一脚本、1983年放送のドラマ)を観たんですよ。めちゃくちゃ感動しちゃって。あれが30年前くらいにゴールデンで放送されていたと思うと、すごい時代だなと。劇中のセリフに込められたメッセージがガツンと響いてきて。この作品を観て、ホームドラマをやりたいなと思いました。家族の、すごく普遍的な話をやってみたいですね。
W 同世代の俳優でも活躍している方が多いですが、そういった状況をから自分も感化されたりは?
T そうですね。それは多少なりともあると思います。ただそれよりかは、一刻も早く上の世代の人と仕事をしたい。同世代の人は一生一緒に仕事ができるじゃないですか。50代、60代、70代と同じスピードで歳を重ねていくわけで。だからこそ今は、先人といかに多く仕事をして、脈々と受け継がれていくものを吸収していく作業のほうがとっても大事だなと思っているんです。そこに滑り込みセーフするにはどうしたらいいか、というマインドは常に持ってます。最近では特に、自分が好きな道で、好きな人と仕事をするというのが間違っていない、という確信が自分の中で生まれてきているんです。
W このまま活躍していけば、憧れの監督さんたちと仕事ができる機会も自然にやってくると思います。
T 自分でもそう願っています。でも、こればかりは本当にご縁だと思うので。どうやってその縁を自分に手繰り寄せていこうかという感じですね。
W 昔より自分が表現したいことをできるようになって楽しいと思うことは?
T う~ん……いかに刺激的かだったり、面白い人と仕事をするかのほうが、僕のすごく正直な生理で。なんですかね、自分が10代の頃は芝居が楽しいとか、すごくシンプルだったと思うんです。でも今はそれだけではなくて、どうやって食っていこう、どうやってのし上がっていこうとか、そういうことを考えるうちに、正直楽しいという感情だけではなくなってきた。でもそれが仕事なんだと実感を持って言えるようになってきたなと。楽しいだけではなくて、いろいろな逡巡があって。もちろん面倒なこともあるし、その中での小さな幸せもあるし。これで飯を食っていくんだなと思ってます。これを仕事と言うし、やりがいなんだろうなと思います。
1993年生まれ。2006年にデビューし、数々の作品に出演。着々とその演技力を高めていき、2016年にはドラマ『ゆとりですがなにか』の山岸ひろむ役が話題となる。近年はドラマ『1942年のプレイボール』、映画『走れ、絶望に追いつかれない速さで』、『ポンチョに夜明けの風はらませて』などで主演を務めている。
『海を駆ける』5月全国ロードショー
『50回目のファーストキス』6月1日(金)から全国公開