「優等生になるようなものをロックなテンションでかけていくというところにおもしろさがあると思います」白山 將視(白山眼鏡店代表) MR PORTER PAPERBACK日本語版スペシャルインタビュー#1 / スタイリッシュな男たちのスタイルはどうつくられたのか?

白山 將視

MR PORTER日本語版発刊スペシャルインタビュー。今回登場していただくのは、明治時代から続く白山眼鏡店代表の白山將視さん。白山さんが手がける眼鏡には、東京生まれならではの空気感なのか。粋と野暮を知り尽くしたスタンダードな眼鏡に色気を感じる。そんな眼鏡に魅了されて、ジョン・レノンを始め、多くのミュージシャンや俳優も愛用しているという。眼鏡で人の個性を引き出してしまうセンスの源流はなんだろうか。さっそく、話を聞いてみよう。

MR PORTER PAPERBACKは、レンジがすごく広くてなにが好きなのっていうのがわからないというのがコンセプトですね。と、鋭い意見を優しい口調で語りだす。
 あるテイストに基づいて選ばれていると思うんですけど、登場する物や人物のレンジが広くて時代も長いですね。たとえば自分の好きなウィンザー公爵が出ているところなんかも、さすがイギリス洒落者の心っていうのがテーマなんでしょうね。と、核心をついてくる。これは辛口な意見ではない、的得ているストレートな発言だ。冒頭でも書いたが、白山眼鏡には人の心を射抜いてしまうような物づくりの姿勢がある。そんな物づくりの背景には音楽が深くかかわっていることがあげられるだろう。

 音楽好きは音楽好きですね。なかでもやっぱりビートルズ。知り合いから、興味ないからって言われて譲ってもらったチケットで、高校1年のときビートルズを武道館で観ています。ライブはやっぱり最高でしたね。いろいろ感想はあるんですけど、演奏は40分くらいだったので、もっと観たいなって思いました。大学1年ぐらいのときにビートルズが解散したこともあって、60~70年代の学生の頃はソウルが好きでしたね。ソウルは、黒人のリズム&ブルース。テンプテーションズとかシュープリームズですね。


 家業の眼鏡屋を継ぐにあたって(眼鏡は)おもしろいアイテムだと思わなかったんだけど、ミュージシャンでかっこよく眼鏡かけている人はいるなと思いまして。
 眼鏡作りでよく言うのは、「ミュージシャン」と「眼鏡」というかかわりが、ファッションページ上でかけるというより、普段からかけているものを感じさせるものですね。ボブ・ディランにしてもジョン・レノンにしてもね。映画のなかの役づくりというレベルを越えたようなことをやってくれたのは、ぼくにとってはミュージシャンなんです。バディ・ホリーの眼鏡も、ひも解いていくと、ジョン(・レノン)は、彼に憧れて眼鏡をかけることが嫌じゃなくなったというきっかけが少年時代にあったらしいですね。
 自分にとって眼鏡は、かっこよくおもしろくやるには、その辺の接点をやれたらと思っているんです。

「眼鏡には独特のトッポい感じというか、そういうよさを出せる要素があるんです」

自分の眼鏡は、すべてのモデルに名前を付けているんですが、ミュージシャンをイメージしてつくる場合は隠れてその人の名前を付けることが多いんですよ。本名のミドルネームから取ったり、たとえばエルビス・コステロから「コステロ」と名付けちゃうとリアルなので、お母さんの名字を使っていたり、ぼくだけの秘密がある。
 コステロをイメージする場合、眼鏡をつくる時点ではあえて資料は見ないで、自分のなかにインプットされているコステロを引っ張り出しながら進めていくんです。なので、後から写真などを見比べると、似ている場合もあるけど、むしろ離れている場合が多い。大事なのは「コステロがこれを掛けたら格好いいだろうな」っていう思いでつくりきること。それだけです。
アーティストの音楽性はもちろんだけどビジュアルも大事な要素だし。やっぱり、ロックって半分は格好だよね。だから自分が好きな人は両方あるってことかな。
 
 バディ・ホリーもその代表格のひとり。
 昔の資料を見ていくと、普通の人だったら、えっと思うようなものをかけている。そんな眼鏡でもかっこよさがある。独特のトッポい感じというか、眼鏡にはそういうよさを出せる要素があるんです。本来ならば眼鏡はまじめになっていく要素と反対のおもしろさがあると思うんですよ。つまり、インテリに見せるほうの眼鏡って言うとピンときますよね。バディ・ホリーって眼鏡をかけていて、すごく似合っていると思うのは、クラスで一番ドジをやって、つかまっちゃうような「まじめ」な印象の眼鏡を「違った意味」でかけている。それが、すごくかっこいい。ある意味、野暮でもあるんですよ。

 眼鏡ってかける「人」そのものですよね、人がかけてこそ成り立っている。
 バディ・ホリーもそうですが、あの時代のあの人の背景や音楽を含めて似合っているんだと思いますね。顔と似合っているというのもあるんでしょうけど、その「存在感」に似合っている。眼鏡をかけている顔がその人の印象となる。ジョンだって眼鏡を外している顔より眼鏡をかけている顔のほうが、一般的な顔だと思うんですね。また、眼鏡外すとだれかわからない人もいる。普通は眼鏡をかけることで隠れるものですけど、外すと変装となってしまう。そこまでは言わなくても、ぼくが狙っているところは、そんな野暮と粋すれすれのところ。優等生になっちゃうようなものを結構ロックなテンションでかけていくというところにおもしろさがあると思います。

「眼鏡が似合うには結構メンタルな部分が大きいと思います」

 眼鏡を選ぶコツはないですね。だれかに教えてもらうのではなくて、結局、似合う人って納得してかけているんですよね。ちょっと冒険した眼鏡を買ってくれた人も次に会うときには似合っているんですよ。冒険をしたときでもその眼鏡をかけた自分をきっちり受け止めることができたときにはもう似合っているんです。もちろん、顔型に似合っているとか、着ているものとかのバランスもありますけど、むしろ、その人が自信を持ってかけることができたとき、かけていることを意識しなくなったとき、さらには周りの人も「あれ今日眼鏡かけて来たっけ?」という感じになったときが一番似合っていると思う。結構メンタルな部分が大きいと思います。

 ぼくの持論は、眼鏡が好きな人はあっちもこっちもかけない。もしかしたら着たきり雀じゃないけど、スーツだったら、2着ぐらいを取っかえ引っ替えという程度に見える。実はすごく似ているものを50着も持っているのかもしれないけれど、そういうテイストの似合い方なんです。色も形もいろんなのを持っていますとか言っている人は、ぼくから見るとあまりしっくりこない。たとえばフレームの色は、べっ甲、黒、とグレーみたいに10メートル離れたらおんなじ色みたいなのを実はいっぱい持っている感じです。そういう人のほうが、ぼくにとって似合ってみえる。
 先ほど、かけていることを意識しなくなったときに似合うようになると言いましたが、それはおれはこうだよという潔さよさ、これ以上でもこれ以下でもない、笑う奴は笑えよ。突飛なのをかけ始めても、笑われてもいいんだよという覚悟みたいな感じが似合わせてしまうんだと思います。めげちゃダメ。笑われたらどうしようとか、気にして外すような人は似合わない。あまり参考にならないと思うんだけど、ぼくはそう思っています。

 たしかにメガネというアイテムは、選ぶときにちょっと照れくさかったりしますが、一期一会というか「なんかピンときた」みたいなインスピレーションで選ぶのがいい。それでも迷ってどツボにはまったら、一度仕切り直すといいでしょう。店外へ出て時間を置くなり日にちを変えるなりして、改めてトライすることをおすすめします。2度目のトライは案外すんなり自分の欲しいものがわかると思います。

 最後に白山氏の毎日の習慣はなんですかと質問すると、やはり、答えには音楽があった。白山眼鏡と音楽の関係は、切っても切れない要素なのだ。

 いまもギター好きで、ヒマがあると毎日ギターに触れます。よく使うのはフェンダーのストラトキャスターとマーチンのD18ですね。全然うまいわけじゃないんだけど、爪弾いて、おなかの辺りに音の振動を感じているだけでも嬉しい。だから、ぼくにとっては、仕事との切り替えになってストレス解消になる。
 ビートルズの曲をかけて、5人目のメンバーとして。やれば20曲くらいは一緒にやりますよ。それは毎日やっていますからね、それだけ時間を費やしているのになんでこんなにヘタなのって奥さんに言われるけど(笑)。

「狙っているところは、野暮と粋すれすれのところ」

しらやま・まさみ●株式会社白山代表取締役。創業は、1883年(明治16年)東京人形町の白山(しらやま)眼鏡店がルーツとなる。1946年に分家という形で現在の上野本店を開業。1975年にオリジナルフレームの製作をスタートして、現在までに約450モデルをリリース、そのデザインのすべては代表である白山將視さんが手掛けている。基本コンセプトは、「デザインしすぎない」ことで、かける人に自然と馴染むフレーム作りを心掛けており、約120アイテム580バリエーションのオリジナルフレームがある。ジョン・レノンを始め、国内外多くの著名人が愛用している。

白山眼鏡店
http://hakusan-megane.co.jp/

書影
THE MR PORTER PAPERBACK
THE MANUAL FOR A STYLISH LIFE VOLUME ONE


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