「寝返ったつもりはなかったんだ」11年ぶりのメンバー再会に走る緊張。 90年代アメリカン・パンク最重要バンド、ジョウブレイカーの知られざる軌跡。
ジョウブレイカー/ドント・ブレイク・ダウン
1986年~1996年の10年間活動、80年代前半に吹き荒れたアメリカン・ハードコア以降のパンク・ロックの中でもインディペンデント・シーンでひときわ絶大な人気を誇り、エモコア(エモーショナル・ハードコア)とも呼ばれた90年代アメリカの最重要パンク・ロックバンド、ジョウブレイカー。ブレイク(Vo.、G.)、アダム(Dr.)、クリス(B.)の3人からなる3ピースバンドだ。BLACK FLAGのグレッグ・ギンが運営するレーベルSSTの大ファンで意気投合したブレイクとアダムは高校時代にジョー・ストラマー(THE CLASH)とD・ブーン(minutemen)に直接勧められRED HARVESTというバンドを結成、のちにニューヨークの大学に通うことになったとき、「好きなバンドはGOVERNMENT ISSUE、NAKED RAYGUN、WIRE、HUSKER DU、RITES OF SPRING、DESCENDENTS、SONIC YOUTH、NECROSなど」「バンド・メンバー求む」と記されたクリスのメンバー募集広告に書かれたバンド名に衝撃を受けた二人が連絡、ジョウブレイカーは結成された。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコと拠点を移しながらインディーズ・シーンで活動、グリーン・デイとニルヴァーナのあいだに存在するギャップを埋められる唯一のバンドと思われた存在だったが、ある出来事で「パンクの精神に反している」と罵られ、チケットを買ってまでステージに背中を向けて抗議するファンが多数出現するなど、凄まじいバッシングを受け、96年に突如解散した。
『ジョウブレイカー/ドント・ブレイク・ダウン』はそんなジョウブレイカーの知られざる活動の軌跡、解散の顛末をそのままストレートに映し出した作品だ。インディーズでの活動、メジャーレーベルの勧誘、楽曲創作への姿勢、支えてくれるオーディエンスとの関係。バンドが規模の大小はあれど少しでも商業的な成功を求めた場合に生じる歪みは、何のために活動するのか、バンドとは、創作とは、表現とは、という根源的な問いに対する思考を巡らさずにはいられない。監督はminutemenのドキュメンタリー映画『ミニットメン:ウィ・ジャム・エコノ』(2005)のキース・スキエロンとティム・アーウィンのコンビ。本作は2007年に約11年ぶりに再会を果たしたメンバーの姿も映しだされ、その時点でこの映画の企画が立ち上がっていたことを伺わせる。だが映画祭で初上映されたのは2017年、またすべての権利処理がなされて商業的ディストリビューションが可能となったのが2019年である。なお、監督のキース・スキエロンは2016年に膠芽腫脳腫瘍でこの世を去っている。
出演はメンバーのほか、アンナ・ワロンカー(THAT DOG)、ビリー・ジョー・アームストロング(グリーン・デイ)、ベン・ウィーゼル(スクリーチング・ウィーゼル)、ベン・サイズモア(イコノクライスト)、またプロデューサーであるロブ・カヴァロ、スティーヴ・アルビニなど。ピクシーズの「SURFER ROSA」やニルヴァーナの「IN UTERO」など数々の名盤を手掛けたスティーヴ・アルビニは当初ジョウブレイカーをJAWBOXと勘違いしていたと証言している。
地下でうごめくロック・ドキュメンタリー映画の新作/旧作を連続特集上映。
今秋、シネマート新宿・シネマート心斎橋にて開催予定。