FASHION

あの人が高ぶる、くつとカバン――大北幸平

The Choice is Yours

ウエアよりも道具の側面が強いシューズやバッグは、使い勝手ももちろん大切だ。だけど、そこに美学や思い出を込めるとそんな実用品は替えの効かない唯一無二の存在となる。センスの良いあの人たちの心が弾むのは、どんなアイテムに触れたときなのか。納得や共感とフレッシュな驚きで満ちた彼らの”選択”に誰よりクールな彼らの偏愛と情熱を見る。

Photo:Kengo Shimizu text:Rui Konno

品質やブランド力をトータルで見て改めてすごさを実感する

「VAINL ARCHIVE」の洋服は、ただラックに掛けられているだけでも不思議とそれとわかる。ロゴやわかりやすい柄がなくてもだ。きっと、大北さんの素材やシルエットに対する人一倍のこだわりがそうさせているのだろう。彼がここでお気に入りとして挙げてくれた「A.P.C.」のスニーカーは、自身のそんなモノ作りともどこか重なる、ミニマルでも確かな個性を感じる1足だ。「少しぽってりした形やライニングのレザー使い、そこだけ白にしている配色センスとか、ドンズバに惹かれて買いました。このブランド自体が好きで、コラボレーションのものは以前から買っていましたけど、インラインでは初めて手を出したスニーカーです」。しかし、そんな大北さんの言葉を聞けば聞くほど、彼の「Emilio Pucci」のバッグというチョイスは意外性を増していく。「これは以前ピッティの企画展に参加させていただいてイタリアに行ったとき、向こうでセールで買いました」。彼の食指が動いたのはブランドの本場という異国の空気とリーズナブルだったことももちろんあったが、何よりもそこに宿るクラフトマンシップが最大の理由だ。「この刺しゅうやディテールとか、見た瞬間に”これは自分には作れないな”と思いました。品質もブランド力もトータルで見て、改めてすごさを実感したんです」。大北さんは普段多くは語らないが、実はレディースのプレタポルテもヴィンテージも積極的にチェックし、そこで得た視点をメンズクロージングに活かしている。こうしたものから様々な知識やアイデアを得ながらも、むやみにそれを詰め込まない、むしろ徹底して削ぎ落としたモノ作り。シンプルに見える「VAINL ARCHIVE」の服がなぜ強い個性を放つのか、そのヒントがやはりここにはあるはずだ。

写真上_「A.P.C.」のスニーカー
外装はブラックで統一され、キャンバスアッパーは自然に色落ちしてきている。「ちょうどヴァルカナイズドスニーカー以外のモデルを探していたころに出会って。4年くらい前のものだけど、今も現役です」

 

写真下_「Emilio Pucci」のショルダーバッグ
立体的な刺しゅうの装飾を施したボディと、編み込みのレザーを使ったストラップなど、繊細なディテールが目を惹く逸品。「すごく惹かれたけど、僕には異様に似合わなくて(笑)。金具を外そうか悩んでいます」

Name:大北幸平 Job:VAINL ARCHIVE デザイナー

Profile:1976年生まれ、東京都出身。2009年に「VAINL ARCHIVE」を設立。先ごろ、パーソナルエリアとして「SALTANDPEPPER」が恵比寿にオープンしたばかり。同店では、同時に写真家の小浪次郎さんの展示も開催中。

※本ページは『warp MAGAZINE JAPAN』2018年4号に掲載された情報を再編集したものです。

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